〜萌理賞開催〜 未発表オリジナルの創作小説・イラストを募集します。

http://q.hatena.ne.jp/1151442461
追記:文字数は数えてないのだけどたぶん2,3千くらい突破した。投稿したらまず殺されます。
追記2:一所懸命に執筆したのだけど、定員オーバー。悔しい。悔しいのでこちらに。

『余暇を如何にして過ごすか』

 早朝。夏とは思わせないような清々しさを含んだ微風がベットで寝そべる俺の頬を擽った。
 意図的に仕組まれた様な鬱陶しい前髪が幕を開けるように揺れ、微かに開けていた目にカーテンから差し込む一筋の光が当たり思わず顔を顰める。
 睡眠中を狙った不条理な攻撃を避けるように毛布で光を遮断し俺は二度寝を試みることにした。しかし、一度覚醒してしまった意識が睡眠を欲することはなく妙にクリアな気分を引き起こしていた。ただひたすら目を瞑りシャットダウンを待っても一向に意識が落ちる気配はない。
 仕方なく起床することに決めた俺は、ベット上でだるそうに上半身を起こし何となく視界を外界へと移した。
 空が青い。
 無限に広がる青空と綿をばら撒いたような白い雲。眩い光線を放つ太陽。それらを背景に突進む飛行機雲が視界の隅に映る。快晴だと思わざるを得ない天候である。
 時折舞い込んで来る涼風と耳を擽るような小鳥の囀りが心地よい。朝の目覚ましとしてはこれほど贅沢なものはない。早起きは三文の得というがまさにこれだな、と先ほどの怠けを内心苦笑し空を仰いだ。

 今日も平和だ。

 夏休み。およそ2ヶ月に渡る学生にとっては夢を孕んだ長期休暇を示し、同時に学期末試験で心も身体を磨耗させた戦士共の休息期間でもある。無論、朝の忙しい時間を二度寝で済ませようとした怠惰まみれな俺も夏休み満喫中の学生の身である。
 8月に入って間もない夏の真っ只中。残りの休暇も1ヶ月近くある。部活は無所属。強いて云うならば帰宅部という非行少年スレスレの位置を保っている俺には部活練習や運動するという概念は微塵もない。そして追試や講習などを受けるほどこの脳は腐ってはおらず期末試験では安全ラインを見事に突破してみせた。極めつけに教師に出された殺人的なまでに量を追求した課題たちは速攻で終わらし、俺を前に平伏させた。完璧。完全。完全無欠。非の打ち所がないというのは今の俺に相応しい。――だが、そんな安楽の時は束の間のことであった。 俺の敵は教師だけに納まらず世界を敵に回していたというのだ。その名を夏休みという。徹底した日数とこの身を貪る暇、暇暇。地獄である。比喩ではない。目的がなく漠然とした時間を過ごせというのは拷問に近いものがある。いわば、この余暇の過ごし方を模索するという懊悩を持て余すことが俺に課せられた唯一の課題であり――到達点である。

 無駄に思想を巡らせていた脳を抑止させ意識を外界へと向けた。早朝の涼しい時間帯だからこそのほほんとしていられるが、今は夏なのだ。夏至である6月21日から蓄積されていった被熱がここ最近で最高潮と達し、温暖化の影響と共に我々人類を容赦なく襲ってくるのだ。油断は禁物である。熱対策もせずに外出でもしてみろ。日射病や熱中症にでも犯されて九死に一生というレアな体験を過去に背負うことになるぞ。上手くいけばこの熱い夏に三途の河で泳ぎ嫌にでも体温が下がるかもしれないな。――っと閑話休題
 俺は手早く私服に着替えると窓を開放したまま私室を後にした。流石に泥棒などの不法侵入者への警戒は怠ってはいない。むしろそういった犯罪者よりも性質の悪い隣人に注意した方が身のためである。そいつの悪事悪行悪態を身を持って体験すればおのずと解る。その矛先が俺だけに向けられているような気がするのはやはり気のせいであって現実から目を背けるときに発現する錯覚なのである。仮に、仮にだ。それらの事象が意図的に作為的に恣意的に俺に向けられているとしよう。いわば戦場で砲身が偶然俺にピンポイントで向けられたようなものである。その時は迷わず神の存在を疑い怨むだろう。
 そうこう被害妄想を繰り広げながら洗面所で怠けた表情を洗い流し、光沢が出るまで歯を磨いた。
 一通り朝の身支度を整えるとタイミング良く腹の虫が弱音を吐いたので調理場兼食卓であるダイニングルームの一角に設置された冷蔵庫に向かう。何か手軽に腹を満たせる物はないかと虎視眈々として物色を試みたのだ――が。見事に徹底的なまでに冷蔵庫には何も有してはいなかったのだ。――不幸だ。とか呟いた後、その不運が自らの引き起こした災難であることを思い出し愕然とした。
 ――話は変わるが、俺の両親はこの長期休暇を使って夫婦水入らずの旅行の所為で家を空けているのだ。そこで気の利く俺は両親の邪魔をするわけにはいかず家の留守番を申し出たのだ。とはいえ両親も端から俺を門番に遣わす予定だったようでさり気ない気遣いは灰と化したのだが。そんなわけで今、この家にはこの俺しかいない。普通なら親の束縛から逃れた今、自由を謳歌したいところだが如何せん、食い扶持が出かけてしまっているのだ。無論、俺に調理師のスキルなどあるわけもなく健康は保証されてない。コンビニ弁当やインスタント食品で困難を乗り切ってきたのだが――飽きるなどといったアクシデントを予想できるわけもなかった。そして、昨晩になって手料理が食べたいなどと暴言を吐いてしまったのだ。――それも隣人である"アイツ"の目の前で。それからの記憶は曖昧で何が起きたのか鮮明に覚えていない。おぼろげに記憶にあるのは不敵な笑みを浮かべたアイツと原色な液体が鍋でぐつぐつと煮立っているシーンのみである。気分は二日酔い患者の如し。ちなみにアイツが最終的にどうなったのかは知らない。――と、いう悲惨なエピソード。そんな事件があったため冷蔵庫には当然の如く何もないのだ。冷蔵庫の中身だけで済んだのが僥倖だろう。ここは素直に安心しておくべきだ。
 ぐだぐだ回想に耽っていても埒が開かないし腹も膨れない。ここはどうにかすべきと一旦私室に財布を取りに億劫そうに足を動かす俺にはこの先の災難など知る由もなかったのだ――。

 俺の部屋に誰かいる。
 そう直感めいたことを思ったのは私室のドアの前。僅かなドアの隙間から垣間見る人の気配に尋常でないものを感じたからである。戦慄した。まさか朝っぱらから他人の部屋で悪事を働くとは夢想だにもしなかったのだ。"ソイツ"は犯罪者ではない。だがそれ以上に凶悪で危険な奴だ。狙った獲物は逃がさない。対象の精を吸出し骨の髄までむしゃぶりつき挙句の果てにはその骨でスープの出汁を採るぐらい凶悪なのだ。ソイツは含みのある笑みを浮かべ頑強たる瞳でこちらを見据え愉快そうに表情を歪めるのだ。ぐぅ、なんて忌々しい。だが同時に奴も人間なのだ。同じ種族にある俺が何故戦々恐々としなければならないのだ。全くをもって不愉快だ。なので俺は決死の覚悟を決め恐る恐るドアの隙間から部屋の様子を窺うことにした。
 ――おかしい。誰もいない。
 隙間から覗ける範囲で。先ほど開放したままの青空が拝める窓際。見事なまでに整理された勉強机に素朴な形をした直方体の箪笥に棚。そして隣人側に向かったこれまた開放された窓に隣家の開放された窓。目を凝らせば乱雑に散らした衣類が床に置かれているのが見えた。――そこで俺は確信した。

 単純な推理だよ、ワトソン君。

 何処からかそんな幻聴が聞こえ脳内で響かせた。・・・・・・そうだホームズ。俺たちに解けない謎はない。この一見何も変化のない無人の部屋から導き出される答えは単純明解。思想を巡らすまでもない。そう脳内補完すると俺は勇気を振り絞り私室への一歩を踏んだ。やはり誰もいない。俺以外は誰も。しかし何だこの不安と濃厚に漂う人の気配は。まるで先まで誰かがいたような。そんな気がする。
 神経を張り詰め聴覚を研ぎ澄ます。集中した意識が部屋の一角――ベットに向かった。視線の先には変哲もないベット。しかし、衣擦れ音と微かな喘ぎ声か何かの息遣いが先客の有無を知らせる。明らかに毛布の上から人型の凹凸が見て取れた。俺は一気にベットに歩み寄り毛布を力の限りを尽くして剥ぎ取った。

「嗚呼・・・・・・純情青年が滴らせる青春の汗の芳しい匂ぃ・・・・・・すぅ・・・はぁ」

 ベットの上では見覚えのある一匹の魔物が息を荒げてのた打ち回っていた。客観的に見ればこれほど愛くるしいものは情景はないだろう。しかし、その可愛らしい顔にちょこんとのった口がおぞましい台詞を吐かなければの話だが。
 半ば放心していた俺を差し置いて魔物はむくりと身を起こしてのうのうと朝の挨拶を交わした。無論一方的なものであるが。

「おっはー」

 何処かで耳にしたことがあるような挨拶を自然に発し、俺に向かって満面の笑顔を見せた。*1
 俺は視線だけを動かし彼女の肢体を視界に捉えた。肩に掛かる程度に伸ばした栗色がかったセミロングヘアにいかにも健康そうな白い肌。服がズレた拍子にブラの紐が片方、肩から外れているのが何とも艶かしい。非常に整った顔だが些か童顔寄りな表情をにこにこさせ大きな目をくりくりとして輝かせている。さながら奇異のものでも見るような好奇心にまみれた瞳。無論、ターゲットはこの俺。

「素人くん? 何幽体離脱して戻れなくなったような顔してるの?」*2
「――あ、ああ。おはよう。何と言うかだな。朝っぱらから他人の部屋に忍び込むような据えた度胸を持った萌に畏怖嫌厭の情を抱いてしまい思わず硬直してたのさ」*3

 思わず本音が出てしまう。その言葉に萌は表情を顰めて悪びれた風に言った。

「部屋に勝手に忍び込んだのはちみっと悪いと思ってるけど――『いふけんえん』って何?」
「ああ、畏怖嫌厭というのはだな。思わず悶絶してしまうほどの絶世の美を目の前にしたときに使う驚嘆語だよ」
「――ぇ、ぇえっ!? そ、そそそそそんな現世には有るまじき美の代名詞とか褒めたって何も出ないぞっ」

 何とか誤魔化せたようだ。助かった――萌が天地一転するほどの馬鹿で。それはそうと何故に俺の部屋に――というか如何にしてこの部屋に忍び込んだのだろうか。道路に面した窓は開放していたが残念なことに俺の部屋は2階に位置する。無論、隣家側の窓は厳重に封印したはず。異常な跳躍力かクライマー経験者でなければ窓から侵入することは不可能なのだが――エスパーか?

「ええと、萌。どうやって侵入したんだ?」
「"どうやって侵入したか"じゃなくて"いつ訪問したか"でしょ。玄関から普通に入ったけど。――何また窓から侵入して過剰な幼馴染っぷりを演出してほしいの?」

 なんてこった。玄関から普通に奇襲してくるとは想定外だ。そして施錠忘れとは腑抜けているのにも限度があるな。夏休みと同時に警戒心を学校に置いてきたか?
 思わず耽ってしまう。自らの愚かな失敗を悔やみ今後の防犯対策を異様に練った。――ボス級の魔物を目の前にして。

 刹那、仄かに温かみを残した毛布が視界に迫り、世界が暗黒と化した。

「な・・・・・・ッ!」
 思考の海に埋没しかかっていた意識が現実に引き戻される。頭上から覆うように被された毛布はどこか甘い匂いがして――って違う。ピュアな気分を振り払い俺は非常事態にも関わらず内心の焦りを外に漏らさないように冷静さを装って毛布を剥ぐ素振りをとる。

「萌。いったい何を――おおぅ!?」

 背中に何かがのしかかる。否、この感触は抱擁かっ。軽いとは言えないが極端に重いわけでもない重力が肩に掛かる。おそらく萌だろうが、如何せん。肩から肩甲骨の辺りに心地よい何か――柔らかく人肌の感触がして男の所々固まった何かをほぐしてくれる様なそんな――。思考があらぬ方向に飛んでいく。やはり男なのだと実感せざるを得ない仕方のないことである。

「暇暇暇暇――っ! 素人くん遊ぼうよー。出かけようよー。暑いよー。宿題やってよー」
「なんか最後に本音出てるしッッ!?」

 思わず絶叫する。色々あったが未だに朝飯時。近所迷惑にならなければいいが。
 どうにかして毛布を剥ぎ取り視覚の回復を試みるが視界一面に太陽光線が差し込んだ。――拙い。
 目が眩み。足元がおぼつかない。どうにか均衡を保っていたバランスが崩れ近場にあったベットに萌共々倒れ込んだ。

「ひゃぁっ」

 背中から可愛らしい悲鳴が聞こえる。何とか俺が下敷きになるようにうつ伏せに倒れこんだのだが無事で何よりである。
 頭を後ろへ捻るように向け目を白黒させている萌に降りるよう旨を伝えた。

「・・・・・・はぁ」

 嘆息する。何が楽しくて早朝から女子と一緒にベットの上でギッタンバッコンしなければならないのだ、とそういう意を込めて。そしてベット脇でにこにこしてる事の根源である萌に視線を移す。

「で、素人くんドコ行く?」

 などと吐きやがった。謝罪の言葉もなく平然とした態度をとっている。ふぅ、ここは一発礼儀ってヤツを巧みな話術で教え込んでやる。たぶん無駄だと思うが。

「あのな、萌――」
            ――ピンポーン。

 意気がる俺の耳朶に電子的でどこか丸みのある音色が居間に響いた。思わずして意気消沈。億劫そうにまだ見ぬ客人へ意識を思考を傾ける。――はて誰であろうか。車特有の排気音や騒音は早朝の閑散とした住宅街でも結構響くのだがそんなモン聞こえなかったし。今や両親は不在で親関係の客人ではないことが判る。では俺か? いやしかし俺にそんな予定はない。今日も今日とて家で余暇を持て余すはずだったのだが。まぁそんな夢見は萌が侵入した時点で丸潰れだしな。今に誰が来たって変わりはない。
 棚に置かれた緑色に発光するデジタル時計を見据える。『AM 9:30』。訪問時間としては少し早いぐらいか。俺はすぐさまベットから身を起こし萌へ目配せする。

「お客さんだよね。誰だろうどうやら親御さんたちは不在のようだしどう考えても素人くん関係だよね。誰だろうこんな夏真っ只中の早朝に。誰だろう素人くんしかいないはずの自由空間に訪ねてくる泥棒猫は。誰だろう素人くんて友達いっぱいいるもんね。特に女子が目立つけど。容姿端麗眉目秀麗成績優秀頭脳明晰スポーツ万能品行方正人柄良好完全無欠の素人くんは異常にモテるもんね。この間だって偶然ほんと偶然に素人くんが放課後の教室で可愛らしい女子生徒からラヴレター貰うとこを目撃しちゃったんだよね。幼馴染は見たッって感じ? あっと話がズレたね。うんほんとに誰だろうね。私的には宗教新聞勧誘が望ましいなぁ。上手くいけば遊園地のチケットとか貰えると思うし。遊園地最近行ってなかったんだよねーというかそんな暇なくて泣く泣く我慢してるんだけど。そうだ素人くんどうにか粘って二枚分手に入れてよ。そうすれば夏休みという膨大な長期休暇の一日を難なく潰せるんだよ。知ってるよ私。いつも向かい窓から暗視透視スコープで途轍もなく暇そうな素人くんを捕捉しちゃってるの。暇でしょ暇で暇で暇で暇にいつか殺されかねないほど窮地に立ってるでしょ? だから言い訳口実詭弁なんてふざけた真似はできないよ。ということで素」

 後ろ手にドアを閉める。変な所で察しがよい萌にこれ以上喋らせてはいけない。いつか足をすくわれるか解かったものではない。そう決意すると足早に階下に降り、待たせている客人を気遣い多少焦りながら玄関に向かう。階上から「早くしてねー」と萌の催促の声が聞こえたので一人聞こえないフリをした。
 鍵が開いている。やはり萌の言った通りに施錠し忘れていたようだ。そう思いながらノブを回し客人への対応にと返事をしながらドアを押し開けた。

「はーい、どちら様でしょうか」
                 (続く)

・・・・・・
ごめんなさい。まだ続きます。
そもそも路線から外れてるしどちらかというと夏がテーマになっとるしありがちだし長いし文章が拙いし。
皆さん技術高すぎですし私なんかが入り込む余地なんて端から無に等しかったんですね、はい。

続きは忘れた頃に書きます。

*1:おはスタ

*2:主人公の名前とか付けざるを得なかったので主催者様のHNをお借りしました。ちなみにどう読むかは貴方次第。

*3:テーマが萌えということで短絡的に